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    「星のデデデ」の背景にある「虫プロの時代」

    アニメ『星のカービィ』の総監督である、吉川惣司は1960年代、初期虫プロのアニメーターだった。
    星のカービィ、特に『第49話 アニメ新番組星のデデデ』や『第41話 メーベルの大予言! 前編 』『第42話 メーベルの大予言! 後編 』(2002年)には、そういった監督の経歴が反映している。

    「星のデデデ」は、素人が集まってテレビアニメをつくろうとするが、スケジュールは遅れに遅れてスタッフは徹夜続き、絵はひどい出来、アフレコはぶっつけ本番、さらにプロデューサーの意向で脚本が大幅に書き換えられて、完成フィルムでは主役が変わっていて、放送中にフィルムから発火、視聴率は最低記録。でも、放送は出来たという話。
    「メーベルの大予言」は赤い星が主人公達の住む星に接近し、占い師はそれが衝突することによって、この世は滅びると予言する。最初は望遠鏡でなければ見えなかった赤い星は日に日に巨大化し、世界は赤く染まり、住民達はパニックに陥る。だが暴風が吹き荒れる中、主人公が星の軌道をそらして、世界は救われ、青空が取り戻される、という話だ。

    今回は同じく虫プロのアニメーターだった山本暎一の自伝的な小説『虫プロ興亡記―安仁明太の青春』を主な資料に考察する。この小説では、主人公の名前は「山本暎一」ではなく「安仁明太」となり、架空の人物も登場する。悪役は明らかに架空の人物だ。


    フィルムに色を塗る

    「星のデデデ」のオチの部分では、エスカルゴン達が上映中のフィルムに直接絵筆で色を塗っている。
    白黒映画に色をつけるため、フィルムに色を塗るということは、100年前に実際に行われていた。

    白黒フィルムしかなかった時代、カラー映画はフィルムに絵筆で色を塗ることで作られた。
    1906年の「水の精」はこの技法。しかし、この技法だと色ずれが出て観客は笑ったという。
    参考『名作はあなたを一生幸せにする―サヨナラ先生の映画史』淀川長治
    こういう「フィルムに直接描き込む」技法への言及は『虫プロ興亡記―安仁明太の青春』にもある。

    「星のデデデ」のオチは、この技法が念頭にあってのことだろう。
    まあ上映しながら塗ると、絵の具が乾かないと思われる。


    虫プロの時代は白黒からカラーへの移行期

    虫プロが制作した『鉄腕アトム 宇宙の勇者』(1964年)という映画がある。
    この映画は、急な映画化の話に対応するため、すでにテレビアニメとして放映された3つの話をまとめた。『ロボット宇宙艇の巻』『地球防衛隊の巻』『地球最後の日の巻』の三つである。
    この『鉄腕アトム 宇宙の勇者』は、全体としてパートカラーである。

    この中で山本暎一が担当した『地球最後の日の巻』は、手塚治虫のマンガを原作にしている。『鉄腕アトム 12』収録の「地球最後の日の巻」がそれだ。
    山本暎一は白黒のTV版を映画化にあたってカラーにしてつくりなおした。カラーフィルムなのに、赤と青しか使わないという大胆な色使いだった。

    「物語は白黒の画面で進行し、突如、黒い夜空に、赤い点として惑星が現れる。赤い惑星が近づくにつれて画面に占める赤のスペースは大きくなり、最後は衝突寸前の惑星の反射光で地球がまっ赤に染まってしまう。(中略)ラストカット、赤い惑星は消え、ひとびとの頭上にはさわやかな朝の空がよみがえる。明太は、このワンカットの朝空にのみ、ブルーをつけた」『虫プロ興亡記 安仁明太の青春』


    ここでは「惑星」となっているが、手塚治虫の原作では「怪星」。吉川惣司の星のカービィでは「妖星」。
    山本暎一さんは、ご本人もいうとおり、SFが苦手なのだろう。

    原作マンガは当然白黒であり、赤い星が大きくなっていく描写や、暴風が吹く描写がある。
    しかしマンガには世界が赤く染まる場面はない。最後のコマでアトムが見上げている空は白黒ながら、夕焼け空だと思われる。映画版の『地球最後の日』で、赤い世界が消えて、青空が広がるのは、演出の山本暎一の独特の色彩感覚が発揮されたとみていいだろう。

    これが話としても、映像表現としても、『星のカービィ メーベルの大予言』の元になっているだろう。『星のカービィ』のこれらの話の放映は2002年で、映画版『鉄腕アトム』の1964年から数えて、40年近くたっている。若い原画マンもベテランのアニメ監督になろうという歳月である。

    参考
    鉄腕アトム・宇宙の勇者
    http://tezukaosamu.net/jp/anime/5.html

    手塚治虫アニメワールド 虫プロ・手塚治虫 長編3部作 DVD-BOX



    ダミー映画

    星のデデデには動画と台本をすりかえることで、できあがるアニメの内容を変える場面がある。

    それと少し似た話で、虫プロは『哀しみのベラドンナ』という映画の時に、上映用とは違う、ダミー映画を作ったことがある。
    脚本と本編が違うのは、普通のことで、アニメ星のカービィにもそれとおぼしき所はある。
    しかし、『哀しみのベラドンナ』のように、フィルムがふたつあるというのは、かなり珍しい話ではなかろうか。
    予算に困った虫プロは、「あとでつくりなおせばいいから」と監督を説得して、遅れている映画を手抜きの状態で、とりあえず完成させてしまう。そうやって配給のヘラルドから予算を前借りした。
    この『哀しみのベラドンナ』の制作には杉山ギサブローのアートフレッシュが参加している。アートフレッシュは、杉山ギサブローが出崎統、奥田誠治、吉川惣司らを伴い、虫プロから独立したアニメスタジオだ。作画監督は杉山ギサブローであり、スタッフロールに出崎統の名前はあるが、吉川惣司の名前はない。

    参考

    「アニメラマ三部作」を研究しよう!
    山本暎一インタビュー 第1回[再掲]
    http://www.style.fm/as/13_special/mini_060116.shtml

    「アニメラマ三部作」を研究しよう!
    杉井ギサブロー インタビュー(前編)[再掲]
    http://www.style.fm/as/13_special/mini_060119.shtml


    ドラマも生放送の時代

    「星のデデデ」には、放送でフィルムを流して、声優が生放送で声をつけている場面がある。
    これはギャグとして描かれているが、ドラマも生放送の時代、アニメもぶっつけ本番でアフレコという発想が、手塚治虫には本気であったという。

    テレビアニメを実現させるには、作業の能率が大事だ。それには、ナマ放送のドラマを考えてみるといい。ナマ放送は、芝居も音楽も効果音も、一回でキメている。テレビアニメも、それだと思えばいいのではないか。極端にいえば、放送でフィルムを流して、声優と音楽と効果音をナマでつけてもらってもいい。『虫プロ興亡記』


    ちなみにアフレコはアフターレコーディングの略で、絵ができた後に声を入れる。
    逆に声優の演技に合わせて絵をつけるような場合は、プレスコという。プレスコアリング (prescoring) の略。

    それよりさらに時代をさかのぼると、無声映画に弁士が台詞を生でつけていた。
    なお、サイレント映画に弁士がついたのは、日本だけ、という。
    参考 淀川長治『名作はあなたを一生幸せにする―サヨナラ先生の映画史



    眠れない虫プロの日々

    締め切り前のアニメーターは眠れない。虫プロは特にそれが顕著だった。
    『千夜一夜物語』の制作中に、監督である主人公がスタッフにこういう場面がある。
    「……方策なんか、なんにもない。残っている方法は、これまで寝た時間も寝ないでやるということだけだ。そこでおれは、これから六月十日までのほぼ三十日間を、もう眠らないことにする。みんなもそうしてくれ。」『虫プロ興亡記』

    これ、主人公の発言。星のデデデでは、「寝たらハンマーでたたき起こすぞい」とか言うのは、悪役であるデデデの発言だったのだが。

    虫プロがこうなった理由はいくつかあるが、そもそもトップである手塚治虫がろくに寝ないで、マンガを描き、アニメを作っていたので、手塚を尊敬する虫プロスタッフがビジネスライクになれなかったというのがあるだろう。また、鉄腕アトムの成功で日本のテレビアニメの歴史が始まり、次々にテレビアニメが作られるようになった。それまで日本にはアニメーターという職業の人が少なかったのだが、急激に需要が増えたということで、当時のアニメ業界は絶対的なアニメーター不足に陥っていたのだ。

    当然のことながら、この小説中で同僚のアニメーターが次々に心身を病んで倒れていく。
    主人公も自律神経の失調と鬱病(古い本なので「うつ病」表記ではなかった)に苦しみながらも、仕事を続ける。
    徹夜続きでアニメスタッフが机で放心状態になっている状態を、虫プロでは「蝶々になった」と言っていたそうだ。このような「気がふれる寸前」のスタッフは、自宅に送り返された。

    ……なんという、ブラック企業。
    「星のデデデ」の脚本を書いた人の、人生初の職場はこういうところだったのだ。
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    タグ : アニカビ

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