アイヌ民譚集を読みました。

    その中に「ペナンペ パナンペに女にされる」という話がありました。
    このパナンペというのは、役割的には「成功者」です。ペナンペは、「真似して失敗する者」です。
    日本昔話における正直爺さんと意地悪爺さんみたいなものですね。
    だいたいこんな話です。
    「ペナンペという若い男がいた。
    ペナンペはいつも、僕と結婚してくれる女の子がいたらいいなあ、と思っていた。
    そんな彼の様子を見ていた男友達のパナンペは、ある時ちょっとからかってやろうと思って、河で体をよく洗い、魔法で素敵な美少女に化けた。
    そして、ペナンペが仕事をしている留守に家に入って、掃除、洗濯なんでもこなし、美味しいお料理を作って待っていた。
    仕事で疲れて帰ってきたペナンペが、今日もこれから自分で洗濯とか掃除とかして、飯も作らなきゃならないのかと、思っていると、おうちはキレイになっていて、美少女が手料理でお出迎えしてくれた。
    ペナンペは「とうとう僕のところにも、かわいいお嫁さんが!」と感激して、美少女と食事をし、彼女を布団に連れ込んだ。
    すると美少女は笑って、手を叩きながら家の外に飛び出し、男の正体を現した。
    うわーん、騙されたー、いつか仕返ししてやるーっ! と、ペナンペは怒りまくったが、パナンペは笑い続けた。
    しばらくしたある日、パナンペが家に帰ると誰もいないはずの自分のうちから煙が出ている。そっと窓からのぞくと、美少女に化けたペナンペが掃除を済ませ、食事の支度をして、自分を待っている。
    パナンペは「バレバレだって」と内心で笑いながら、気付かぬ振りでペナンペと食事をした。
    そしてペナンペを布団に連れ込むと、やはりペナンペは笑いながら逃げ出した。
    が、その時ペナンペよりも強力な術者であるパナンペが、ペナンペに術をかけた。
    すると、ペナンペは身も心も女となって、へたへたと居間の床に座り込んだ。
    ペナンペは本物の美少女として、パナンペの妻になり、夫婦仲良く暮らした。」

    どこかのエロ同人で読んだような話ですが、これ、岩波文庫です。
    本当にこういう話かどうか気になる方は、原書 アイヌ民譚集―えぞおばけ列伝・付をどうぞ。

    ホモ女体化萌えは、北の国の文字を持たぬ民族の間にも、語り継がれていたんですね。
    所詮、人類は変態なんですか。
    まあ、口伝の民話って大人向けの話も多いですから。
    特にこのアイヌ民譚集は、艶笑談とかも入っていました。
    上のパナンペの話と似たような話は、ネット上にいくらでも落ちてそうだけれど、この話には対比とか笑いとかの要素があって、民話としての完成度の高さがあるなあ、と思います。

    この話は結構珍しいパターンだと思う。民話としては。
    まあ、あまり民俗学に詳しくはないですけれど。

    この文庫には昔話の比較研究者の解説がついていて、これを「動物女房」のパターンとして分類しています。
    「動物が人間の男の嫁になって、男に福を授ける」パターンですね。
    で、その人があげている例は「魚女房」とか「蛤女房」とかの話です。
    そして、「嫁になるのは、食える生物が多い」というような意味のことも話していました。
    狩猟採取生活的メルヒェン?

    大雑把に考えて「人間の女以外の者が人間の女として、人間の男の嫁になる」という、異類婚だと考えると、全世界に類話が、たくさんあるパターンです。
    でも、やはりメジャーな話で他に「人間の男が人間の女として、人間の男の嫁になる」パターンは、ないらしいです。
    あったら、この学者の人、類例として書いていると思うんですよね。

    「わたしはあなたに、助けられた馬でございます。恩返しに参りました」とかいう「動物系援助者」のパターンと、
    「あなたに一目惚れしました。お手伝いいたします」とかいう「女性系援助者」のあわさったようなパターンが、「動物女房」ですよね。

    『キン肉マン』では「あなたの優しさに惚れました」とか言って「ナチグロンがご飯を作りに来る」がこの動物女房パターンでしょう。


    『聖闘士星矢』でも、こんな感じの改変はありました。
    テティスの話はギリシャ神話では「様々な姿に変身する女を恐れず、しっかりつかまえておけば、嫁にできる」という「魔物の征服」みたいな話なのですが、「わたしは昔ジュリアン様に助けられた魚です」という、日本民族の伝統に忠実なお話になっていました。

    仇討ちと恩返しは、日本のメルヒェンの証ですか?
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