手塚治虫の『魔神ガロン』が、吉川惣司監督で2013年にアニメ化

    この前、手塚プロダクションの公式サイトを見たついでに、「吉川惣司」でサイト内検索をかけた。
    どっちかいうと過去の仕事が出てくることを期待していたんだけど、ウィキペディアにも未記載の最近の仕事が出てきて驚いた。
    過去の仕事というのは例えば、「孫悟空が始まるよー 黄風大王の巻・・・」の、
    作画:山本繁、吉川惣司
    とか。でも過去の仕事についてはこの一件だけ。

    最近の仕事というのはこれ。2013年のもの。

    手塚治虫の名作キャラクターを大阪芸術大学がアニメ化!
    大阪芸術大学キャラクター造形学科 × 手塚プロダクション 

    プロデューサー 高橋 良輔(大阪芸術大学キャラクター造形学科 教授)
    監督・脚本 吉川 惣司(アニメ監督・脚本家)
    共同制作アニメ「ガロン」


    っていうか、一般人は見られないのかよ。
    幻の作品過ぎる。
    大阪芸術大学の生徒さんはあの「星のデデデ」や「星のフームたん」の監督であり、脚本家である人の作品で学べるのですか。すごく勉強になりそうですね。
    いやいや、皮肉じゃないよ。「星のデデデ」自体が「アニメの作り方を解説するアニメ」なんだし、理屈でアニメを把握している人の作品は、学ぶにはいいんじゃないかな。

    プロデューサーの高橋 良輔さんは同じく虫プロ出身者で、『装甲騎兵ボトムズ』の監督として吉川さんと一緒に仕事をしている。

    この作品は冒頭の3分だけ公開されている。

    TezukaOsamu.net/jp > アニメ・映像wiki > ガロン

    絵コンテ担当者の名前がないが、吉川監督本人かな。
    この三分の映像では断言できないが、断片的ながら、過去の吉川惣司絵コンテ回およびそうといわれる回を見るに、アップカットの少ない人みたいなんだよね。だから可能性はあるんじゃないかな。とはいえ、原作もロングショットが多いから、原作通りなのかもしれない。

    参考 ■[アニメ]『あしたのジョー』の語られざるアクション演出家、吉川惣司

    この作品が「学生の教材」として作られた理由は、新聞に掲載されたインタビューなどで知れる。

    簡単に言えば「学生が勉強のために、合法的に二次著作物をつくれる原作を学校が用意しました」だな。

    「一度完成した作品を第三者が勝手に再編集するのは普通はありえない」

    2013年4月24日 朝日新聞(兵庫県) 抜粋

    うん、ニコニコ動画やYouTubeで、そういうのたくさん見たことある気がするけど、その通りだね。

    この試み自体は筋がとおっている。
    いわゆる「二次創作」については「コミケは新人の勉強の場だ」みたいな主張もされるが、著作権について学ぶのもいずれ著作権者たることを目指す学生には、重要なことだろうから。
    このアニメをいじることで、手塚作品とロボットアニメの勉強ができる、ということになる。ついでに吉川作品と高橋作品の勉強ができそうだな。というか、高橋プロデューサーは教授なんだから、教授の作品を学生が学ぶのは当然だ。
    吉川監督は『星のカービィ』の時と同じように「動かしました」みたいなことを述べている。アメリカに憧憬と反感を抱いているのも相変わらずのようだ。

    参考 2013年4月18日 朝日新聞夕刊 抜粋

    この件に関しては朝日が一番詳しく報道したのね。


    原作マンガ『魔神ガロン』解説

    さて、手塚治虫の『魔神ガロン』というのはどんなまんがだろうか。冒頭部分のみあらすじを書いておこう。

    ある日、空からなぞの隕石が落ちてくる。その隕石は何かの部品で、俵教授は助手の敷島博士と協力して、それを組み立てる。しかし、完成した巨大な人造人間、ガロンは動かない。教授は孤独に研究を続け、ついに10年目に動かすことに成功するが、教授は暴れ出したガロンの下敷きになって死んでしまう。俵教授は「夢でガロンを正しく使わないと人類を滅ぼすと、宇宙人に告げられた」というメッセージを敷島教授に遺した。敷島博士は俵教授の遺言を元に、ガロンと一緒に地球に落下してきた、ピックを探し出す。ピックはケン一という少年の弟として、10年間暮らしていた。しかしタランテラという、悪人の部下達が強引にガロンを動かして、ガロンは再び暴れ出す。今回は街を壊す騒ぎになり自衛隊が出動。敷島博士の見つけたピックのいうことをガロンは聞いて、正常に動く。だが東大の教授達はガロンを危険視し、ガロンとピックを分解しようなどと言い出す。しかしタランテラとそれに協力する悪女がピックをさらおうとし、ガロンはまた暴れる。この時は、敷島助手の活躍とガロンの力でピックを取り戻し、タランテラを退けることができた。なんとか権力者達を説き伏せ、ガロンは人の役に立つこともするということを、敷島博士は証明しようとするが、タランテラがまたもガロンを奪おうとする……。


    『魔神ガロン』の主要な物語は、冒頭でも明言されている巨人伝説。そして、『聖書』の創世記だ。

    聖書では神は、正しい者が10人いたら、ソドムとゴモラの街を滅ぼさないと約束したという。しかし街を天使が訪れたところ、街の男達は男性の姿をして街に降りた、二名の天使と強引に寝ようとする有様。天使達を泊めてくれたロトの一家しか正しい者がいなかったので、天使は彼らに逃げるように伝え、神は街を滅ぼした。

    参考 ウィキペディア ソドムとゴモラ
    神の怒りに触れて滅ぼされたソドムとゴモラ

    この「神の使いに対する扱いで、人間が善か悪かを判断し、悪と判断されれば滅ぼす」という物語は高河ゆんの『アーシアン』や上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』でも使われた。
    さらに、心臓が体の中にない巨人という童話もある。

    参考 体の中に心臓を持っていない大男の話


    これは『ドラえもん のび太の魔界大冒険』でも使われたパターンだ。
    ただこの場合の心臓は「急所」であって、「良心」ではない。
    弟や妹のいた手塚にとって「良心」とは「幼い弟(妹)のようなもの」なのだろう。
    この物語のピックは「巨人の良心」であるとともに「主人公の弟」でもある。
    この『魔神ガロン』の物語は、兄が弟と協力して妹を守る物語とも読めるのだ。

    『魔神ガロン』に主人公側のヒロインはいない。あえていえば、ピックだ。

    手塚の『魔神ガロン』に主要なキャラクターとして登場する、女性キャラクターは4名とみていい。バケネコとよばれたバーミケネコのアネゴ、白狐のおコン、魔女のガゴール老婆。そして幼女のチマ。
    前者の三人は味方にはならない。
    彼女らは皆人間だが、手塚先生は「変身する女性」とか「動物花嫁」とか大好きなので、動物名をつけてみたり、変装させたりしているのだろう。その例は『ネオ・ファウスト』の獣に変身する女悪魔メフィストや『38度線上の怪物』の結核菌の美少女や『未来人カオス』の背中に虫の羽のある美女。人造幼女の例としては『鉄腕アトム』のウランや『ブラック・ジャック』のピノコ。

    以下に『魔神ガロン』の敵側の人間関係を簡単に記す。
    ナントカ編というのは、敵が誰かで話をわけ、筆者がつけた見出しである。

    タランテラ編
    タランテラという怪人が敵の親玉。手下は男ばかり。バーミケネコのアネゴが敵側の一味で、ピックをだまそうとする。

    海龍王編
    海龍王という科学者が敵。敵側は全員魚の仮面をかぶっている。特に手下のキャラを立ててはいない。手下は男女ともにいる。ケン一少年が魚の仮面をかぶって、女装する場面がある。

    黒岩社長編
    密輸犯である、黒岩組の社長が悪の親玉。かたわらにいるのは、男装して登場するギャング、白狐のおコン。

    X大佐編
    ゴースト博士という悪の科学者がかたわらにいる。
    黒岩が恩義を感じて助けてくれる。

    ゾロモン大王編
    悪い大王が治めている国の話。その王子が主にケン一達に敵対する。ガゴール老婆という魔女が、大王のかたわらにいる。老婆の姿は実は変装で、正体は若い女。ベーリング博士という、この国に武器を輸出している人物の手下。

    ブッド博士編
    インディアンの科学者。チマという幼女とピックが人違いされて、大人にならない人造人間のピックが幼女のふりをする。

    タイムマシン編
    特に悪の親玉はいない。敵は米軍。ピックが自分を犠牲にして、人類は助かる。


    マンガ『鉄腕アトム』の「アトム対ガロンの巻」

    ガロンは『鉄腕アトム』にも悪役として登場した。
    参考 鉄腕アトム 11 Kindle版


    『少年』昭和37年10月から連載が始まった「アトム対ガロンの巻(原題:アトム対魔神)」は、これまで紹介した作品とは少し雰囲気が異なる。
     ある日地球に謎の巨大ロボットが落ちてくる。実はそのロボット・ガロンは、異星人が星を改造するために作った惑星開発用ロボットだった。(中略)猛烈な勢いで地球を死の星に改造し始めたガロン。アトムはそれを止められるのか!?

    手塚マンガあの日あの時 第7回:アトムの予言─高度経済成長のその先へ─

    解説無しのあらすじはこちら
    TezukaOsamu.net/jp > マンガwiki > 鉄腕アトム

    この話はアニメ化もされている。

    アニメ版『鉄腕アトム』19 アトム対魔神 1963/05/07 演出:手塚治虫

    誤って地球に移送されてきた惑星改造ロボット、ガロンに対して、人類は核攻撃を考える。しかしアトムは別の方法でガロンに対抗する。

    この当時なら、吉川監督はアニメーターとして虫プロにいたはずである。

    「アトム対ガロンの巻」は48ページの短編なので、登場人物は少ない。
    主人公はアトムで、お茶の水博士とのコンビで話が進む。
    『魔神ガロン』に登場したタランテラの役割を果たす、天川博士という人物が登場する。手段はともかくこの人物の目的は、宇宙人の科学力や宇宙の神秘を知りたいという科学者として純粋なもの。魔神をコントロールできずに死ぬ、天川博士の物語は少しだけギリシャ神話のパエトンの物語に似ているか。

    この話にヒロインは存在しない。ピックも登場せず、ガロンは命令に従い地球を人類の住めない星に改造しようとする怪物である。
    ガロンを水爆で破壊しようとするのは「防衛軍」とされている。日本の軍隊なのか、国連軍なのかはわからない。この「防衛軍」の代表者らしき人物には名前がない。

    「アトム対ガロンの巻」は、冒頭で漁師と魔神の話を例に挙げ、これは「化け物に知恵で勝つ話」だと作者の手塚治虫が明言している。これ以外に、民話や神話の例を挙げるとするなら、『三枚のお札』のやまんばをだます話や、『長靴をはいた猫』の猫がオーガをだます話、『オデュッセイア』のオデュッセウスが巨人のポリュペーモスをだます話だろう。


    アニメ版『ガロン』の冒頭の三分を分析してみる

    冒頭におかれているのは、ガロンが地球に落下し、夜、暴れ回る場面だ。
    話はそれから200年後、ヒロインのサラがドクターと会話している場面にうつる。
    このアニメのヒロインのサラとフームが似ているのは同じ吉川監督だからだろう、という意見はツイッターを「吉川 ガロン」で検索したらいくつかみかけた。
    なお、吉川監督は過去に、『ムーミン』(1969年、フジテレビ 虫プロダクション) の絵コンテを担当したそうなので、フームの目つきは、ミイから来ているのかもしれない。ただし、ミイには下まつげはない。
    吉川監督は『星のカービィ』公式サイトのインタビューで、『ムーミン』に言及している。
    カービィを手がけた監督に直撃!アニメ界の大御所、吉川惣司監督インタビュー

    冒頭の何か秘密を知っていて、「ドクター」とよばれる太った眼鏡の男性は、『星のカービィ』のチップ先生に気のせい程度に似ている。この役をつとめたのは、『魔神ガロン』では若い敷島博士、「アトム対ガロンの巻」ではお茶の水博士だった。両者の中間ぐらいの年齢?
    パソコン画面で力説しているニュースキャスター? はカスタマーに似ているかな。

    メアリー・アニングの冒険 恐竜学をひらいた女化石屋』 (朝日選書) という著書が吉川監督にはある。この伝記自体が「アニメーターが女性科学者と組んで、過去の女性化石研究者の埋もれた真実を探す物語」なのだ。
    この本については、瀬名秀明の書評がアマゾンの試し読みで読める。
    科学の栞 世界とつながる本棚』(朝日新書)
    この書評には、『メアリー・アニングの冒険』はアニメ化されなかった、アニメの解説本というように書かれている。『ガロン』はメアリー・アニングのアニメ化という側面を持つのかもしれない。

    『ガロン』冒頭の、ガロンの真実を最初に発見したが、男性が握る権力に葬られた女性科学者の物語はこのあたりからだろう。メアリー・アニングはおおざっぱに言って200年前の人物だ。
    『メアリー・アニングの冒険』の出版は『星のカービィ』の放映終了後まもなくだが、執筆期間から考えて、このメアリー・アニングが真実を追究する女性ヒロインとして、フームに先行する。フームの部屋に化石が飾られているのは、このメアリー・アニングからだろう。
    小説版『装甲騎兵ボトムズ ペールゼン・ファイルズ』にもペールゼンがキリコの真実を追究したり、女役が真実を追究する話がある。

    何らかの真実を追究する、というのはテレビシリーズ版『装甲騎兵ボトムズ 』のように、物語の典型ではあるのだけれど、『魔神ガロン』は男性科学者が真実を追究する話だった。「アトム対ガロンの巻」では天川博士は人の手にはおえない真実を追究したために、自滅する。手塚作品には「女性科学者」という登場人物は少ない。「男性=理論 女性=魔性」という方なのかと。
    『ガロン』の場合は、ジャーナリストが真実を追究するのに近い展開になりそう。

    たぶん、ヒロインのサラがドクターとよばれている、太った眼鏡の男性と二人組になり、真実を追究する過程でガロンやピックと出会い、サラがピックの保護者になり、国家権力とガロンの力を背景に対決し、奪われたピックを取り戻すのだろう。
    と、『星のカービィ』の第1話と第6話を、まぜたような展開を予想してみる。

    で、アニメ版のガロンには隠蔽を謀った権力者が、回想される200年前以外に登場するのだろうか。画面写真を見るに米軍の将校かなにかと思われる人物がいる。これはガロンを破壊しようとする人物なのだろう。
    タランテラあるいはそれに相当する悪の組織は、画面写真を見るに登場しないらしい。同じく、「敵側の悪女」とか「敵側の悪の博士」とかも登場しないらしい。
    20数分のアニメだからか?
    それとも画面写真は前半のみで、後半があったりするのだろうか。

    あらすじでふれられている「ガロンの正体」だが、これはアトム版の「惑星改造ロボット」というものではなく、『魔神ガロン』の「宇宙人の使者」という路線だと思われる。画面写真に「ヤコブの梯子」が映っているからだ。これは別名「薄明光線」「天使の梯子」。雲の切れ目から太陽光が帯状に伸びて見える、自然現象の一種だ。


    皮肉なことに人類文明の崩壊によって、失われつつあった自然が命を吹き返し、地球を再生させようとしていた。


    あらすじのこの部分を見るに、このアニメ版『ガロン』は、マンガ版『魔神ガロン』だけでなく、マンガ版『鉄腕アトム』「アトム対ガロンの巻」やアニメ版『鉄腕アトム』の19話を下敷きにしつつ、自然保護を訴えようとしているらしい。

    なお、見た学生によるとこうだ。
    「ハッピーエンドでしたが、自分で作るなら悲しい別れにしてみたい」
    2013年4月24日 朝日新聞(兵庫県) 抜粋
    原作は悲しい別れだったし、それもいいだろうな。それが許されている教材なのだから。

    しかしハッピーエンドというのは、サラ達の善良さに免じて、ガロン達が天へ帰って行き、美しい地球が残されるとかそういう終わりなんだろうか。


    スポンサーサイト
    コメント
    コメントの投稿
    管理者にだけ表示を許可する