2005年 K-1ダイナマイト 中尾VSヒーリング

    「愛嬌と失敗は男の武器か?」

    男が愛嬌でのしあがっていくというタイプのビルドゥングスロマンが、大阪にはあるのだと、年末の漫才大会(M-1)や、大阪プロレスの再放送を見ながら、つくづくと思っていました。近年代表的な「笑いでのし上がったレスラー」はインディーズの大阪から、メジャーの全日に行った菊タローでしょう。
    大阪プロレスにいる限り、クールであることは出来ない。女性ファンに悪役を含めたレスラーが可愛い可愛い言われている大阪プロレスを見ていると、「もしかして、これまで自分はゆで先生が大阪出身ということを、あまりに無視してきたのではないか」みたいなことをつい考えます。スクワット1000回できる立派な筋肉と男の子的可愛げの同居って、異次元ゆでワールドだけの不可思議現象だと思っていたけど、なんか違う気がしてきた。
    わたしは出身が関東で、ここ最近関西に住んでいる人間なので、自分が立っている大阪がどういう土地かまだよくわかっていないのですよ。
    しかし、「大阪の男は、なんで愛嬌で金を稼ごうとするのか」ということを研究する学問って具体的にはどのあたりなんだろう?
    ゆでたまご先生は、笑いと愛嬌で金を稼ぐ大阪出身の男の一人、いや、一組です。例え遺伝子が同じでも、長野に生まれていたら、九州に生まれていたら、かなりの確率でそうではなかったような気が今、とてもしています。


    ところで、去年の大晦日はK-1ダイナマイトを見に行っていたんですが、大阪の土地にはリングに上がった男を「何が何でもウケを取らなくてはいけない」気分にさせる魔物でも棲んでいるんですか?

    いや、ヒーリングという選手と中尾という選手が対戦したんですが、その試合結果がこういうものだったのです。


    中尾が熱い口づけで反則勝ちした。試合前、額をくっつけたにらみ合いで、勢い余ってヒーリングにブチュ~とキス。このハプニングに完全にキレたヒーリングの右フックをアゴに浴びてダウン。ヒーリングは「ヤツはホモだ!」と怒りが収まらなかった。試合開始を先送りされたが中尾のダメージは回復せず、反則勝ちの裁定が下った。

    nikkansports.com、バトルTOP、リアルタイム速報、K-1 12・31大阪(引用元の記事はすでに削除されています)



    それで、会場にいたんですが、何が起こったのかさっぱりでした。
    中尾選手の背中から見る席だったんですが、両選手が近づいて、気がついたら片方の選手が倒れていたので、てっきりゴングがすでに鳴ったのかと思いました。
    でも、アクシデントとアナウンスされて、セコンドやドクターがバタバタとリングに上がってきて、試合前に殴ったらしいということが、連れの解説もあってようやくわかりました。
    倒された日本人選手の方に、何か挑発行為があったらしいということは、スクリーンを見ていた連れの解説でわかりましたが、試合前に殴ることはないだろうと思ってみていました。
    殴った方のヒーリング選手は、何だよ、おれが悪いのかよ、とでもいいたそうな不機嫌な表情で、ウォーミングアップでしょう、軽く跳んでいました。
    まさか、一発で倒れるとは思っていなかっただろうな、とはそれを見て思いました。
    そのうち中尾選手は担架で運ばれていき、ドクターストップで試合は行われない、中尾選手が回復したら行う、とアナウンスが。
    連れが後ろの席の客の会話を聞きとったところによると、どうも中尾選手はキスをしたらしい、そんなバカな。プロレスじゃあるまいし。

    その後、第八試合後に、中尾選手が回復しなかったので、HERO'S公式ルールにより、試合前に殴ったヒーリングの反則負けとする、というアナウンスが。そして相手の選手を侮辱した中尾選手にもペナルティが科せられると聞きました。

    家に帰り、ネットでHERO'S公式ルールを確認してみましたが、こういうことのようです。

    第7条 試合の勝敗は以下の結果で決定する

    第3項  テクニカルノックアウト(T.K.O)

    (b) ドクターストップ
    相手選手の正当な攻撃を受けて怪我を負った場合、リングドクターが診断し試合続行不可能と判断したとき、その選手は敗者となる。但し、反則攻撃による怪我の場合は、反則を犯したものが敗者となる。



    わたしの記憶によると、8条2項に基づいて中尾選手にペナルティというアナウンスだったような気がするのですが、この項目は

    第8条 以下の行為を反則とする
    2.  目、鼻、口等、粘膜部への攻撃



    なんですよね。記憶違いでしょうか。

    両者を反則とする根拠は、この曖昧な項目かも。

    第8条

    18. プロ選手として常識外の行為反則行為により選手がダメージを負った場合、または選手の位置関係に大きな影響が見られた場合はレフリーは必要に応じて試合をストップし、反則を宣告の後、反則行為が行われた直前の状態から試合を再開するものとする。また反則行為が攻防の流れに大きな影響を及ぼさないとレフリーが判断した場合は、試合は継続状態のまま反則の宣告が行われるものとする




    会場で聞いたアナウンスでは最後まで「キスをした」とは言わなかったので、家に帰ってネットで調べて、写真とか動画を見て、うわー、マジでそんなことやったんだ、と驚きました。
    会場にいた客でわかったのは、スクリーンを凝視していた人間か、近い席のいい角度でリングを見ていた人間でしょう。

    いきなりキスされたら、殴ってもいいとは、そりゃ思うよ?
    男にだって性的自由を守る権利はあるし。

    しかし、「試合前に相手を殴るな」と「対戦相手を侮辱するな」という明確な項目は、ヒーローズルールにないんですね。
    常識の範囲というか、れっきとした法律違反ですから、わざわざ書かなくていいと思いますが。
    試合開始前なら、パンチは単なる暴行だし、合意に基づいていないのなら、キスは単なる強制わいせつです。予定されたシナリオがあったのなら、どちらも合法ですが、そうでないなら、両選手共にお気の毒です。
    特にK-1のペナルティというのは、反則1つでファイトマネー10パーセントカット、失格になればファイトマネーを全額返さなくてはいけません。
    ヒーリングはこのルールがそのまま適応されれば、ノーギャラです。

    プロレスならホモネタギャグは、見たことがあります。パンツドライバーの開発者、男色ディーノとかは、それが売りですよね。
    ちなみにK-1GP1995のベルナルドvsバンナ戦でも、にらみ合いからキスというのはあったそうなのですが、ジョークとして相手も会場も受けとめたらしいです。

    K-1やPrideはショーです。

    今回会場で流された、須藤元気のこれまでの戦いの映像の中に、プロレス技のバンデーラがありました。それが名場面になるんですね。
    桜庭とか、そういう「おふざけ」をやる選手は、たしかに人気があります。
    なのでそういう美しいが効かない技を、試合の最中に出さないといけないような気がしてくる選手もいるでしょう。
    今回のヒース・ヒーリング選手の入場の際の紹介文句は「テキサスの暴れ馬」というとてもプロレス的なものでした。興行師達はもちろん、選手達もプロレスラーをひとつのお手本にしているようです。
    中尾選手もプロレスが好きで、総合格闘技の試合中にドロップキックを出したりしていたそうです。挑発好きなのも、その流れと思えなくもありません。

    例え試合自体が真剣勝負でも、選手の過去は物語化されて映像が流され、入場は演出され、魅力的な容姿、人を引きつける言動を期待されます。
    選手には「キャラを立てないといけない」とか「余裕を見せないと」とか「愛嬌のあるところを強調しないと」というプレッシャーがかかっているのでしょうね。

    これは苛酷な要求です。

    一流の役者でさえアドリブで場を湧かせるのは、難しいものです。
    スポーツの世界で強さを追い求めてきた人間が、これはショーなんだから何か面白いことをしないと、と思いつめて見事にこけたら、ものすごく笑いがとれてしまったというのが、中尾xヒーリング戦でしょう。でも、中尾選手は一人で滑ったわけではなく、相手を巻き込んでの転倒でした。

    ちなみにこの事件は、英語のサイトでは「キス未遂」というように言われたり、スポニチのサイトでは「頬にキス」として書かれたり、ライブドアニュースでは「挑発行為」とボカして書かれたりしているので、どうも一部マスコミは、お気の毒な中尾選手やかわいそうなヒーリング選手の名誉を守る方向に動いているようです。
    単に不正確な報道ではないでしょう。
    あいつ男にキスされたんだってー、とか言われたらテキサスでは生きていけそーにない。それを考えると、当然とも言えますが。

    ネットに写真や映像が出回っているにも関わらず、真相は薮の中につっこまれてしまうんでしょうか。
    でも、そういう「隠す動き」があるということは、あれはヒーリング選手が予め同意したシナリオなんかでは、なかったということなんでしょうね。
    それじゃあ、ガチで公衆の面前で辱められた上に、新聞に写真が掲載され、世界中に動画流れまくりなのですか……。お気の毒です。
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