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    殺されて心に傷を負う吉川キリコと、殺して心に傷を負う五武キリコ

    今回は装甲騎兵ボトムズの主にサンサ編の脚本家ごとのキリコの違いについて考察する。

    前回の『赤く塗られた肩 -レッドショルダー三部作についての考察』で吉川惣司脚本回のキリコにはPTSD的な側面があると書いた。吉川小説のキリコは、自分が殺されかけたり、目の前で親しい人が殺されたことで心に傷を負っている。彼を苦しめているのは「恐怖」である。

    しかし五武冬史氏のキリコは、罪悪感や自責の念を強く感じて苦しんでいる。
    五武冬史氏の担当回はサンサ編では、第29話「二人」、第30話「幻影」、第35話「死線」、第36話「恩讐」だ。
    30話ではキリコが所属したレッドショルダー部隊が、一般市民を虐殺する映像が映っている。それを延々と見せられたキリコは錯乱し、幻影を見る。
    「そうさ、おまえたちは皆、俺が殺した奴らだ。(中略)さあ、連れて行けおまえたちの所へ」と、キリコは壁に向かっていうのだ。これは罪悪感から死を望んでいるという描写であろう。
    キリコの所属したレッドショルダー部隊に家族を殺されたと、憎しみを抱くゾフィーがサンサ編には登場する。
    サンサ編はゾフィーとキリコの和解が、物語のひとつの中心をなしている。前述のように、五武氏は第36話 恩讐の脚本も書いている。この回では自分の命を狙うゾフィーに、キリコは酸素ボンベを分け与える。自分を殺そうとするゾフィーを殺さず助けるのは、キリコなりの贖罪なのだろう。また、ゾフィーは五武冬史氏脚本のOVA『装甲騎兵ボトムズ 幻影篇』で、再登場する。

    DSM‐IV‐TRケースブック』(米国で発行された精神疾患の症例集)に掲載されている“退役傷痍軍人”は、ベトナムで集団心理に押し流されて、一人の市民を面白半分に殺した米軍人の話だ。彼は罪悪感から除隊後酒浸りになり、大うつ病の診断を下されている。ちなみに、キリコが楽しそうでない酒を飲む、29話も五武脚本だ。

    手塚治虫の『ブラック・ジャック』にも「戦争で殺した側が、罪悪感で錯乱する」という話があった。
    おそらくベトナム戦争当時、こういった話が数多く報道されたのだろう。

    ちなみに吉川惣司氏は「退役傷痍軍人である主人公の父親の、敵に殺されかけたトラウマがどうこう」という話をボトムズのノベライズより前に発行された、レンズマンのノベライズで書いている。『SF新世紀 レンズマン (上巻) (講談社X文庫)』『SF新世紀 レンズマン (下巻) (講談社X文庫)』がそれだ。(レンズマンは正確には軍人ではなく、警官に近い)
    吉川氏は元から“殺される側”の物語が胸の内にある人なのだろう。五武氏については、詳しくないので他の人の論を待つ。

    もし、脚本家が吉川惣司氏なり五武冬史氏なりに統一されていたら、キリコの心の傷の物語はシンプルなものだったろう。しかし、集団作業の結果、キリコは殺されかけたことでも、殺したことでも苦悩する人物となったのではないか。
    高橋良輔監督が最初に思い描いた物語は、どんなものだったのだろうか。

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    赤く塗られた肩 -レッドショルダー三部作についての考察
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