日本神話と毎日新聞問題

    今回は、内容が過激すぎて、テレビではご紹介できない雑学を
    お教えしましょう。

    古代メソポタミアの人々は、エンキという神を信仰していた。
    チグリス、ユーフラテスのふたつの大河は、彼の精液から生じた。
    古代メソポタミアの人々は、その水を美味しいといって飲み、その水で育てた食物を食べていた。

    あ、一応参考資料はありますよ。
    『古代メソポタミアの神々』 監修 三笠宮崇仁/岡田明子・小林登志子 集英社 P22です。

    なんでこんな話をしたかというと、毎日新聞が英語版のWaiWaiというコーナーで、「日本列島は、イザナギという神の精液から生じた」とか、書いたからです。

    New Year shrines find pagan pilgrims looking for love, larger libidos
    「初詣で八百万の神々へとお参りに来る不信心者は愛を、膨らむ欲望を追い求める」
    http://www8.atwiki.jp/mainichi-matome/pages/409.html

    その後、訂正もなしに、記事はコーナーごとまとめて削除されました。
    他にも色々書きまくったらしいですが、今回は神話の話に焦点をあてます。
    waiwaiの記事に関しては、「こんな記事を信じる人はいない」みたいに言う人もいるのですが、日本神話に関するデマはあっさり外国人に、信じられそうな気がするんですね。
    理由は以下の3つです。

    1 日本神話は、海外ではあまり知られていない。
    2 神話は、常識では判断できない。
    3 日本神話は、日本人もあまり知らない。


    1 日本神話は、海外では知られていない

    日本神話って、外国じゃあまり有名じゃありませんよ。
    多くのアメリカ人は、聖書とギリシャ・ローマ神話ぐらいしか、詳しくないんじゃないでしょうか。西洋の演劇や歌劇や文学や絵画や彫刻は、それらに基づいたものが多くあります。
    日本人だって多くの人が、「聖書とギリシャ・ローマ神話」と「仏教と神道」ぐらいでしょう。
    太陽神ルーはどこの神で、ハトホルはどこの神かなんて、一般の人は知りません。世界には神々がたくさんいて、神話も数多いのです。
    ブリュンヒルデって、どこの神話のどんな人物か、即答できたら、日本人としてはかなりの神話マニアでしょう。あるいは、オペラマニアです。むしろ、教養人とお呼びすべき方かも。
    最近なら「ポニョの名前」と答える小学生もいそうです。ブリュンヒルデは、ゲルマン神話を元にした、ワーグナーのオペラの登場人物として有名です。 ワーグナーのオペラは明らかに、ドイツ(ジャーマン)とその周辺以外での、ゲルマン神話の認知度を上げていると思います。

    統計的データはありませんが、日本神話の英語圏での認知度は、日本での「ケルト神話」の認知度を下回る気がします。
    仏教はまだしも、神道は日本にしかないものですしね。神道を元にした、世界的有名作品って聞きません。世界に輸出された日本アニメも、日本神話をストレートに取り上げたものは少ないし、ゲームでも多くはありません(『大神』は例外)。


    2 神話は、常識では判断できない。

    他国の古い言い伝えの正しさは、現代の異教徒の常識では判断できません。
    「精液から島ができるわけないから、waiwaiの記事はデマだ」と断言するのは、むしろ頭のカタい外国人じゃないでしょうか。
    神話や民俗に多少詳しい人は、「ああ、そういう神話もあるのか」と逆にあっさり納得しそうです。その例として、今回の冒頭の「精液から河」という神話は、ご紹介したわけです。

    日本神話よりも有名であろう、インド神話にはこんな話もあります。

    破壊神シヴァはある時期、妻との性交を控えて苦行に励んでいた。その結果、彼のありあまった精液が大地に満ち溢れたので、火の神がそれを焼き付くし、その精液から山と森ができた。

    参考にした本
    『インド神話』 上村勝彦 ちくま学芸文庫 233ページ

    まあ、シヴァが有名でもこの話自体が有名かはわかりませんね。

    古事記によると、日本列島はイザナギとイザナミが結婚して生まれたものです。
    男女の神が結婚して何かが生まれるという多神教の神話は数多いですが、生まれるのが「島」というのは、結構珍しい話です。 ここら辺は、日本が島国だからでしょう。

    英字新聞の読者層に、信者が多そうなキリスト教では、有名な「光あれ」で、男の神様が一人で一週間で、何もかも作ってしまいます。
    「男の神の精液から日本列島が生じた」という、毎日新聞英語版の捏造記事は、むしろ、女不要の一神教的な発想かもしれません。書いたのはカトリック教徒の、オーストラリア人ですから。
    オナンのエピソードにあるように、キリスト教では、精液をこぼすことは罪なので、日本神話を人聞きの悪い方向に、歪めていることも確かです。
    女神の役割が大きいことは、原始的かもしれませんが、日本人としては誇っていいことでしょう。


    3 日本神話は、日本人もあまり知らない。

    「神道では日本列島はどうやってできたということになっているのか? 簡単に説明してくれ。」
    と、英語しかわからない人に聞かれたら、多くの日本人が困る気がするんですよね。
    「混沌としたところから生まれた男女の神が、天から海を矛の先でかきまぜて、その滴で小さな島を作った。その島に二人は降りて、結婚して、日本列島を生んだ」
    と、とっさに英語で答えられたら、かなりすごい。
    自分もブログみたいに時間をかけて返答できるならともかく、口答で英語で日本神話について聞かれたら、まともな返事は無理です。
    「日本列島は、精液からできた」というのが、間違いだというのは常識的な日本人ならわかっても、反論は難しいんじゃないでしょうか。
    それと、「精液からできた」が、間違いだとまで言い切るのも、実は結構大変。

    古代からの神話には、何通りもの言い伝えがあることが、多くあります。
    だから、「矛で作った説」と「精液説」の両方を聞いて、「日本列島の出来方については、様々な言い伝えがあるのだな」と、考える外国人がいてもおかしくありません。 ギリシア・ローマ神話は、古代からの文献がたくさんあって、それぞれ言うことが違います。仏典なんて、それこそ山のようにあります。ネイティブアメリカンの神話やケルト神話のように、近年まで口伝で伝えられてきて、宣教師が文字にしたような神話もあります。エジプトやメソポタミアのように、パピルスや粘土板を発掘して、古代文字を解読しても、断片的にしかわからない神話もあります。
    逆にキリスト教は、「旧約聖書」と「新約聖書」だけを聖典に定める、強烈な宗教です。

    日本には千数百年前にすでに中国から文字が入ってきていて、時の王であり、神道の司祭である天皇が、「これが正しい日本の神話(歴史)」みたいな本をまとめています。「古事記」と「日本書紀」の二書が、それです。記紀神話といわれます。
    天皇家が滅びなかったので、これらの本は現在でも完全な形で現存していますし、文庫本で、一般人にも手軽に読めます。

    つまり、日本人は「古事記にも日本書紀にも、そんなことは書いてない」と言えば、捏造された日本神話を否定できるんです。実は日本にも地方の言い伝えとか、色々ありますが、記紀神話にない話を「正しい」と主張する側が、証拠を持ってこない場合は無視で。なんか原理主義者っぽいですが、変な話を広められたら、たまりませんものね。
    しかし、古事記はまだしも、日本書紀まで手元に置いている日本人は、あまりいないでしょう。

    多くの外国人は日本人と言えば、神道の信者だと考えているでしょうし、それも間違ってはいません。ですが、その神道に関して「原始的で変態的な宗教」という捏造をされた時に、反論できる「神道信者」の数は少ないでしょう。
    ですから、訂正されないまま、変態的な話が「面白い雑学」として海外で、広まってしまう危険があるのです。

    外国人と接する機会のある人は、日本文化に興味を持つ人たちの質問に備えて、神道関連の本を持っているといいんじゃないかと、個人的には思います。
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