FC2ブログ

    『キン肉マンII世』第327回と『鏡の国のアリス』

    『キン肉マンII世』でネプチューンマンが、セイウチンに語る『セイウチと大工』の話の元ネタは『不思議の国のアリス』の続編の『鏡の国のアリス』の第4章に登場する話です。
    実は、あれは前半部分が省略されています。『鏡の国のアリス』の全文は、山形浩生先生の訳で読めますので、興味のある方はどうぞ。

    簡単に言うと、原文の前半にはセイウチと大工が海の外は楽しいよ、一緒にお散歩しましょう、と言って、老いたカキはそれを無視し、若いカキたちは海から飛び出して、ついてくるという場面があるのです。
    セイウチの主食は二枚貝なので、セイウチがカキを食うのはわかります。
    では、なぜ大工? 漁師とかの方が適切ではないでしょうか?
    たぶん、キリスト教圏では、大工と言えば教祖になる前のキリストの職業だからです。
    この『セイウチと大工』というおとぎ話の隠れたテーマは、
    「教祖、弟子を食う」です。
    一緒に行こうと誘われ、あるいは説得されて、キリストの後をついて歩く弟子や、彼を尊敬する信者になる話が、聖書には多く載っています。
    ぞろぞろとカキをひきつれて歩く大工とセイウチは、ニセモノの救い主です。
    ついてきなさい、新しい世界を見せてあげようというのは、甘い誘いの最たるものでしょう。
    いやあ、おまえを変えてやると言われて、教祖たるネプチューンキングにつき従い、今また、自分についてくればおまえを変えてやると言って、セイウチンを連れてきたネプチューンマンが語るにふさわしいおとぎ話ですね。
    というわけで、今週は「ネプチューンマン、セイウチンを食う」でした。
    食われるってのに「悪影響を受ける」という意味があることは、言うまでもありませんよね。

    ディズニーアニメの『不思議の国のアリス』では、この話はあからさまに「小さな男の子が好奇心から見知らぬおじさんについていって殺される話」として表現されていました。ディズニー屈指の残酷場面であることは、間違いないでしょう。
    スポンサーサイト

    キン肉マンII世を読んで『青ひげ』を思い出した話

    大塚英志の『人身御供論』に、日本の昔話に「魔物(蛇の化身とか)に父の都合で差し出された娘が、魔物を殺して村に帰り、幸せな結婚をする」というパターンの通過儀礼の話(『猿婿』や『蛇婿』)があるという話がありました。彼は多くのまんがで「最初の求婚者が死ぬ」というパターンの少女の成長の物語があるのを指摘し、それは少女の「幻想との決別」を描いているのだ、という分析をしていました。

    西洋のグリム童話には、実はそういう「少女が魔物を殺して帰る」パターンの話はない気がします。代わりに多いのが『美女と野獣』タイプの「魔物に父の都合で差し出された娘が、愛の力で魔物の呪いを解いて、王子様になった魔物と、幸せな結婚をする」というパターンです。後者はまかり間違うと「愛の芽生えを期待して美少女を拉致監禁」という『コレクター』の世界にいってしまったり、「相手が変わってくれることを期待して共依存」のアル中の妻になってしまうので、本人の同意無しに娘と結婚するような夫から逃走する前者の方が、単純明快で、女性は楽です。では、葬られる魔物の方はどうなるのか? 大塚英志の違和感はここから来ているのでしょう。昔の日本の方が離婚には寛大だから~というのを、西洋と日本ではなんでそういう違いがでることについての仮の答えとしておきましょう。

    「ブタ顔の醜い王子が王である親に捨てられ、故郷を離れて苦労を重ね、本当は絶世の美男であることを明らかにし、仮の姿が醜いにも関わらず自分を愛してくれた少女と結婚して王位を継ぐ話」である『キン肉マン』は正統派のファンタジーです。
    ちなみに『キン肉マン』の場合に「殺される最初の求婚者」にあたるのは、ビビンバに求婚したが、スグルに一度殺されるフェニックス? 獣として奪いたい、人間として愛されたい、は男の夢かも。
    ビビンバの側からすると「サディスティックな最初の求婚者が死んで、少女は優しい男と幸せな結婚をする」という正道を行っている物語ですね。

    ゆで先生は、「醜いにもかかわらず、相手を愛して救う」に、思い入れがあると思います。誰も自分を愛してくれないが、誰かが愛してくれれば救われるような気がする、というのは永遠のファンタジーですし、実際それで獣から人間になってしまうくらい救われる人もいるでしょう。しかし、愛では救えない人というのは確かに、います。

    『青ひげ』などの娘がサディスティックな男に騙されて結婚し、その男を騙して逃れ、他者の助力でその男は殺される、という系列の話もグリム童話にはあります。
    そして『キン肉マンII世』のアシュラとシバの話は「救われなかった人」の話です。見るなの部屋があったり、鳥の首つり死体が並んでいたりするのは、やはり有名な『青ひげ』をイメージして描かれているのでしょう。サディストといえば、青ひげというのは、古典的ですがそれだけに多くの人に訴えます。あいにく『キン肉マンII世』の主な読者は小学生ではありませんが、子供の心を忘れない人たちばかりだと思いますので、これでいいのでしょう。

    『青ひげ』は「サディスティックな最初の求婚者を葬って、少女は大人になる」パターンの話が大枠なんでしょう。

    少女は思春期に魔物に出会う。それは西洋でも日本でも確かなことでしょう。ただ、「魔物」と言えるようなものに出会うのは、それなりに過酷な思春期を送っている少女でしょう。